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以前にこちらのコラムで少しだけ触れました、「日本人と鹿の革」についての続きを書きたいと思います。

様々な種類の武具から足袋などの実用品にも使われてきた鹿の革ですが、古代から平安時代以降、貴族の遊びとして盛んになった蹴鞠(けまり)に使う鞠も、メインの素材は鹿革です。
面白いことに、この日本伝統の蹴鞠の鞠は、「夏の雌鹿(めじか)」の革で作られるのが最上とされています。
一体何故なのでしょうか。
京都御所の行事などで何度か拝見し、実は我慢できずに関係者にお聞きしたことがあります。
 

そもそも何故「夏」の革なのか。
それは冬毛に比べて毛穴の大きさが小さく、空気抜けを防げるからと言われています。
鹿の冬毛は防寒のために太く密生していますが、夏毛は短く細いのが特徴です。皮から毛を抜いた後の毛穴が夏皮の方が小さく締まっているため、表面から空気が漏れにくく強度が保たれます。
そして夏場は栄養状態が良く、コンディションが整っていると言われています。
鹿は春から夏にかけて豊富な山野草や芽を食べて栄養を蓄えます。冬の厳しい寒さを耐え抜いた春先は皮が痩せて傷んでしまいますが、夏場は体調が最も良く、皮の伸びや弾力性が良好な状態になるからです。
 

次に何故「雌鹿(めじか)」なのか、ということですが、これは角突きの傷が少なく、均一で美しいからとされています。
雄鹿(おじか)は発情期には角を使ってオス同士で激しく喧嘩をするため、体に多くの傷(生前傷)が残りますが、角を持たない雌鹿の皮は傷が非常に少なく、表面が綺麗だからです。
そして雄鹿に比べて皮が薄く、しなやかで柔らかいという点も挙げられます。
雄の皮は肉厚で少々硬さがありますが、雌の皮は薄く繊細で非常にしなやかです。鞠の内部は空洞になっており、大麦を詰めて形を整えたあとに抜き取るという特殊な製法をとるため、球体に張りを持たせつつ柔軟に成形できる雌鹿の革が不可欠だったということです。

蹴鞠の鞠は紙風船のように軽い(100〜150g)のですが、ゴムのチューブなどは一切入っておらず、2枚の革を繋ぎ合わせ、表面に白粉などを塗って「革自体の張りと空気」だけで膨らみを保つ高度な構造です。
もし「冬の雄鹿」の硬くて重く、傷や大きな毛穴のある革を使ってしまうと、重すぎて弾まなくなったり、空気や湿気が漏れて球形を維持できなくなったりするそうです。
 

つまり「きめ細かく軽量で、傷がなくて破れにくい」という非常に難易度の高い条件を満たす天然素材が、「夏の雌鹿」の革だったわけです。
 
先人達が辿り着いた答えを現代まで製法を守って製作してくださる職人さんがいるので、今も奉納行事などで私たちは実物を目にすることができます。
11DROPSの製品とは直接関係の無いお話ではありますが、鞠一つに様々な経緯や技術が詰まっているのかと思うと感慨深く、革製品の製作に関わる者としては、本当に幸せなことだと思います。