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前回このコラムにて「マチ有り名刺入れ・Nexus」の製作エピソードをご紹介しましたが、今回は「マチ無し」の名刺入れの製作エピソードをお届けしたいと思います。

「70枚収納できるマチ有り名刺入れ・Nexus」では、営業職など外回りの方々を想定し、収納力や耐久性に重きを置いて設計しました。対して今回イメージしたのは、オフィスを中心に働く「内勤」の方々の日常です。

「社内にお客様をお招きしてご挨拶する」 「デスクに予備があるため、持ち歩くのは少量で十分」 「名刺入れも普段はデスクに保管」 「それでも、名刺を交わす一瞬の動作だけは美しく滑らかに行いたい」等々です。

そんな日常をイメージしながら目指したのは、使い勝手の良さを追求しながらも、ポケットにすっきりと収まるコンパクトでスリムなシルエットです。
「シンプルさ」と「機能性」が無理なく同居していることが理想で、なるべく薄い仕上がりにしたいと考えました。
 

マチを無くす構造で進めるなか、課題になったのはマチ無し特有の使いにくさです。平面的なポケットは指を入れる隙間が無いので「名刺が少し取り出しにくい」という難点がありました。
一般的な名刺入れでは、この取り出しにくさを解消するために、ポケットサイズを少々大きくして対処しています。カードポケットの左右に余裕ができることで指が入れやすくなるからです。
その分、名刺入れ全体のサイズも必然的に大きくなり、コンパクトではなくなってしまいますので、11DROPSとしてはサイズは拡張せずに対応したいと考えました。

コンパクトなサイズのまま取り出しやすさを確保させるため、カードポケットには2辺が開く構造の「アオリポケット」を採用することにしました。
開口部が大きいので指が引っかかることもなく、名刺の出し入れはスムーズで良好になりましたが、ここでもう一つの課題にぶつかります。それは中身が落ちやすいという弱点です。
たくさんの名刺を挟めば圧力と摩擦で固定されますが、1〜2枚といった少ない枚数では、ふとした拍子にポロっと滑り落ちてしまいます。

そこで色々と試してみた結果、理想的な解決策となったのがポケットの縫製位置に関するひと工夫でした。 一般的な「L字型」ではなく、プラスアルファとして更に一部をつまむような「コの字型」の縫製方法です。ほんの小さな構造の変化ですが、これが実に頼もしい働きをしてくれました。
滑らかな出し入れの感触はそのままに、適度なホールド感が加わることで、逆さにしても名刺が落ちない仕様になりました。
さらに、4つのポケット全てをこのアオリ構造に仕立てたのも大きな見直しです。それぞれのポケットで名刺の端が浮くため、指掛かりが良くなり、操作性は一層高まりました。全ての部屋をアオリポケットにした名刺入れは結構珍しい構造ではないか思います。

 
デスクで保管することを前提としましたので、あえて重厚で頑強な作りにはせず、手のひらやジャケットの内ポケットにすっと馴染む、柔らかな感触と雰囲気を大切にした名刺入れです。
スリムな見た目ながら、奥のポケットに10枚ずつ、手前に5枚ずつと、合計30枚ほどを余裕をもって収納していただけます。
スムーズで美しい所作を実現していただけたら幸いです。