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革の鞄を買うとき、

「高いから大切に使わなきゃ」

と思う人は多いと思います。

傷をつけないように。

汚さないように。

できるだけ新品の状態を保つように。

でも、私は革の鞄を、もっと気軽に楽しんでほしいと思っています。

なぜなら、革は使ってこそ面白い素材だからです。

革は、使っているうちに変わっていく

買ったばかりの革は、もちろん綺麗です。

張りがあって、艶があって、まだ何も刻まれていない。

でも、そこから毎日使っていく。

手で持つ。

机の上に置く。

車に乗せる。

床に置いてしまうこともある。

雨に濡れることもある。

そうやって使っているうちに、少しずつ革が変わっていきます。

最初は硬かった革が柔らかくなったり、

艶が増したり、

自分がよく触るところだけ色が変わったり、

いつの間にか、自分の使い方がそのまま革に残っていく。

それが面白いんです。

傷がついても、それは失敗じゃない

革を使っていると、当然傷もつきます。

新品のときなら、

「うわ、傷ついた……」

と思うかもしれません。

私も革を扱っているので、その気持ちはよく分かります。

でも、何年か経ってから見ると、

その傷も含めて「いいな」と思えることがあります。

その鞄と過ごしてきた時間が、そこに残っているからです。

誰かが同じ鞄を持っていたとしても、その傷までは同じになりません。

だから、傷も含めて自分だけのものになっていく。

私は、そこが革の一番面白いところだと思っています。

「育てる」という感覚

革製品を使っていると、

「育てる」

という感覚が少しずつ分かってきます。

最初から自分の完成された鞄を持つのではなく、

使いながら、自分の鞄にしていく。

手入れをするのも、その一つです。

少し乾いてきたなと思ったら手入れをする。

艶が出てきたら嬉しくなる。

久しぶりに昔の写真と見比べて、

「こんなに変わったんだ」

と気づく。

そういう時間まで含めて、革を持つ楽しさだと思います。

私は、この楽しさを知ってほしい

私が鞄を作っている理由の一つは、これです。

もっと多くの人に、革を扱う楽しさを知ってほしい。

ただ「高級な革を使った鞄」を売りたいわけではありません。

その鞄を買ったあとに、

「この革、これからどう変わっていくんだろう」

と楽しみにしてほしい。

何年か経って、

「買ったときより、今のほうが好きだな」

と思ってほしい。

そして、その鞄を見たときに、

「この鞄と一緒に、こんなことがあったな」

と思い出してほしい。

私は、そんな鞄を作りたいと思っています。

だから、革にはこだわります

革なら何でもいい、とは思っていません。

私が選ぶのは、使っていくことで表情が変わり、持ち主と一緒に時間を重ねられる革です。

フランスやイタリアのタンナーによる革を中心に、自分自身で触って、見て、確かめながら選んでいます。

同じ種類の革でも、一枚一枚違います。

表情も違えば、硬さも違う。

だから、実際に触ってみて、

「この革なら、この形がいい」

「この革なら、こういう仕立てが合う」

と考えながら鞄を作っています。

鞄は、使う人によって完成する

私は、鞄を完成させてからお客様に渡しているようで、

実は本当の意味では、完成させていないと思っています。

最後に完成させるのは、使う人です。

同じ鞄でも、

毎日使う人と、

休日だけ使う人では、

数年後の姿がまったく違います。

大切に手入れする人もいれば、

多少ラフに使う人もいる。

その人の生活によって、鞄は変わっていきます。

だから私は、

「世界にひとつの鞄」=作り手が一点物を作ること

だけだとは思っていません。

その人が使い続けることで、

その人だけの鞄になっていく。

それも、世界にひとつだと思っています。

良いものは、使ってこそ面白い

私は、鞄を飾っておいてほしいとは思っていません。

もちろん、大切にしてもらえたら嬉しいです。

でも、ぜひ使ってほしい。

毎日でもいい。

ガンガン使ってもいい。

使って、革を触って、

「なんか前より柔らかくなったな」

「ちょっと艶が出てきたな」

と感じてほしい。

そうやって、自分の生活の中に革が入ってくる。

それが、革製品を持つ楽しさだと思っています。

鞄を選ぶことは、これからの時間を選ぶこと

鞄は、長く使うものです。

だから、買うときは少し迷っていいと思います。

形が好きなのか。

革が好きなのか。

持ったときの感覚が好きなのか。

これから何年も使いたいと思えるのか。

そして、

「この革を自分で育ててみたい」

と思えるか。

もしそう思える鞄に出会えたなら、それはきっと、長く付き合える鞄になると思います。

私が作りたいのは、買った瞬間だけ嬉しい鞄ではない

買った瞬間に、

「いい鞄を買った」

と思ってもらえるのはもちろん嬉しいです。

でも、それだけでは終わらせたくない。

1年後、

「この鞄、いい感じになってきたな」

と思ってほしい。

3年後、

「買ったときより好きかもしれない」

と思ってほしい。

5年後、

「これ、ずっと使ってるな」

と気づいてほしい。

そして何年も経ったあと、

その鞄を見ながら、

「これを買ってよかった」

と思ってもらえたら。

作り手として、それ以上嬉しいことはありません。

革を扱う楽しさを、もっと多くの人へ

私が鞄を作る理由は、単純です。

革が好きだからです。

触るのが好きで、

作るのが好きで、

使うのが好きで、

変化していくのを見るのが好きです。

だから、その楽しさをもっと多くの人に知ってほしい。

革は、ただの素材ではありません。

使う人の時間を受け止めて、

少しずつ、その人だけのものになっていく素材です。

そんな革を、ぜひ一度、自分の手で扱ってみてほしい。

そして、自分だけの革に育ててみてほしい。

その入口として、私は鞄を作っています。

鞄を通して、革を扱う喜びと楽しさ、そして自分だけの革を育てる特別な体験を、世の中に広める。

これが、私が鞄を作っている理由です。

leather works KATSUYUKI TANAKA
創業者/職人 田中克幸