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カーフについて・フランス編の2回目です。
前回、フランスの名タンナーの強みである3つの要素= ①原皮の質、②発色の美しさ、③カラーバリエーションの豊富さの中で、①の原皮の質について書きましたが、今回は②の発色の美しさについて書きたいと思います。
 
なぜフランスのタンナーの革は発色に優れているのでしょうか。
フランスが歴史の中で培ってきた独自の色彩文化・美意識が息づいているのは勿論なのですが、革の発色を良くするためには、実は「水質」が非常に重要な要素と言われています。

 
アース社 (Tanneries Haas)が工房を設立した場所は、フランス東部アルザス地方のエシュホフェン(Eichhoffen)という村で、敷地はアンドロー川(Andlau)のすぐ脇に位置しており、創業時には川から直接水を引き込むための用水路(水路)が建設されたと言われています。
この地域は、アルザスを象徴するヴォージュ山脈(Vosges)の東側麓にあたり、主に花崗岩(かこうがん)や砂岩で構成された非常に古い山脈です。
石灰岩地帯とは異なり、花崗岩層を通ってきた水はカルシウムやマグネシウムをほとんど含みません。そのため、ヴォージュ山脈の雪解け水や雨水が注ぐアンドロー川の水は、ヨーロッパでは珍しい極めて上質な花崗岩系の「超軟水」なのだそうです。
何故、軟水が良いのかと言いますと、硬水では水にカルシウムやマグネシウムが多く含まれますので、クロム塩やタンニン等の鞣し材や染料と金属イオンが反応して沈殿を起こし、これが革の繊維に固着すると染めムラが発生したり、手触りが硬くなったりするからです。
「発色が美しい」と言われる背景には、決して偶然ではなく、山脈から流れる純度の高い軟水がある場所に工房を構えたという地理的条件が深く結びついているというわけです。  
 
 
デュ・プイ社(Tanneries du Puy)ではどうかと言いますと、火山地帯から湧き出る非常にきめ細やかで純度の高い軟水(超軟水)を使用しているのが大きなポイントです。
オーヴェルニュ地方は巨大な古火山地帯として有名で、硬水になりやすい石灰岩地帯とは異なり、花崗岩や玄武岩などの火成岩層を通ってろ過された水は、カルシウムやマグネシウムなどの金属イオンの含有量が極めて低い軟水(Eau douce)になります。
火山性軟水も不純物が極めて少なく、染料の化学反応を妨げず、革の繊維の奥深くまで均一に色を浸透させるため澄み切った透明感のある発色を生み出すと言われています。
そんなこともあり、タンナーの代表的な革であるチェルカトロやボックスカーフ、チェルボなどに見られる染色は、皮革表面を厚い塗料で覆い隠すのではなく、革本来の繊細な表情を活かした透明度の高い発色になっているのかも知れませんね。
なお社名のPuyとは、フランスのオーベルニュ地方で「丘や山」を意味する語で一般には「火山丘」の意味で用いられます。
余談ですが日本でも馴染み深い天然軟水ミネラルウォーターである「ヴォルヴィック」の採水地も同じオーヴェルニュ地方です。


また、フランス南西部のバスク地方で創業したレミー・キャリアット社(RÉMY CARRIAT)では、ピレネー山脈からの豊富な清流・ラツァ川(Latsa)の軟水を活用するために、すぐ傍らに工房を立ち上げたそうです。
革の鞣しや染色には膨大な清浄水が必要なのと、バスク地方からピレネー山脈北麓にかけての山岳地帯は、カルシウム分を含む石灰岩が非常に少なく、古生代の岩石や粘板岩層が多くを占めており、理想的な軟水であったことが理由とされています。

これらのどのタンナーも、フランスの恵まれた山脈地質がもたらす上質な軟水をふんだんに使える場所に工房を置いていることが大きなポイントで、それほどタンナーにとって水質や水源は重要な要素というわけです。
歴史的見ても、その他のフランスの伝統的な高級タンナーであるアノネイ社やデギャーマン社なども同様で、山脈や河川の近くに工房が作られた経緯も「染色の質を左右する清らかな軟水が豊富に得られる場所だったから」という明確な理由があるそうです。  
タンナーにとって水質は切っても切れない関係であることがよく分かりますね。
 
最後に、水質以外の発色に関してのポイントと言えば、どちらのタンナーもクローム鞣しの革が主流と言うことも重要な要素として挙げられるかと思います。
茶褐色になりやすいタンニン鞣しの革と異なり、クローム鞣しの革は土台となるキャンバスが白に近いため、上に載せる染料の色が素直に、かつ鮮やかに発色するのも大きな要因と言えます。
伝統に基づいた高度な調色技術をもとにして、理想とする色を再現しやすいというのは大きなポイントだと思います。
 
(その3に続きます)