article image

高級バッグを買うと、最初はどうしても神経質になります。

床に置かない。

雨の日は使わない。

傷がつかないように気をつける。

家に帰ったら綺麗にしまう。

高いものだから、大切に使いたい。

その気持ちはものすごく分かります。

でも作り手の私からすると、少し違います。

もっと雑に使ってほしい。

そう思っています。

先日、2年ほど前にBELMONTを購入していただいたお客様のバッグを見る機会がありました。

そのバッグを見た瞬間、正直鳥肌が立ちました。

かなり使い込まれている。

革には傷が入り、シワも入り、形も新品の頃とは変わっている。

でも、それがものすごく格好いい。

新品の時にはなかった深い艶が出ていて、色にも奥行きがある。

「メンテナンスしていますか?」

と聞いたところ、

「一度もしてません」

とのこと。

それを聞いてさらに驚きました。

最初の頃は、傷がつかないようにかなり気をつけていたそうです。

でも、しばらくすると気にならなくなり、

床にも普通に置く。

家に帰ったらそのまま置いておく。

特別な手入れもしない。

そんな感じで、とにかく普通に使っていたそうです。

でも壊れていない。

糸もほつれていない。

革もまだまだ元気です。

むしろ、新品の頃より格好よくなっています。

新品が完成ではない

革製品を作っていて、いつも思うことがあります。

完成した瞬間が、一番完成していない。

少し矛盾しているようですが、本当にそう思います。

私が作った段階では、まだ革も硬い。

形も整っている。

傷もほとんどない。

もちろん綺麗です。

でも、それだけです。

そこから誰かが使い始める。

仕事に持っていく。

休日に出かける。

雨に降られる。

床に置く。

何かにぶつける。

そういうことを何年も繰り返して、ようやくその人のバッグになっていきます。

傷もシワも、その人が使った証拠です。

綺麗なまま保管されているバッグを見るより、

私はガンガン使われているバッグを見る方が好きです。

傷がある方が格好いい

革製品は、傷がつくと価値が下がると思われがちです。

でも私は逆だと思っています。

もちろん、新品の商品に最初から大きな傷があれば問題です。

ですが、使ってついた傷は別です。

革に傷が入り、その上から手の脂や摩擦によって艶が生まれる。

色も少しずつ濃くなる。

最初は目立っていた傷も、何年かすると全体に馴染んでいきます。

その頃には、新品には絶対に出せない雰囲気になっています。

人間も同じかもしれません。

何も経験していない綺麗な人より、

いろんな修羅場を潜り抜けた人の方が、どこか格好いい。

シワも傷もある。

でも、それがその人の深みになっている。

革にも同じようなところがあります。

長く使えるように作る理由

私が鞄を作る時、見える部分だけを作っているわけではありません。

むしろ見えない部分の方が大事です。

力が加わる場所には補強を入れる。

縫製にも無理なテンションをかけない。

必要な場所には芯材を入れる。

何年も使われることを想定して作っています。

特に手縫いで仕立てるモデルは、一針ずつ革の状態を見ながら縫っています。

ミシンより圧倒的に時間はかかります。

でも、長く使ってもらうことを考えると、その手間に意味があります。

だから私は、

「傷がつかないように使ってください」

とはあまり言いたくありません。

逆です。

気にせず使ってください。

そのために作っています。

高級バッグだからこそ、普通に使う

高いバッグを買って、年に数回しか使わない。

それも一つの楽しみ方だと思います。

でも私は少しもったいないと思っています。

鞄は使うものです。

毎日使って、傷がついて、色が変わって、形が変わっていく。

その時間まで含めて革製品だと思っています。

10年後も新品のようなバッグより、

10年間使われてきたことが一目で分かるバッグの方が私は好きです。

そこには、その人の生活があります。

高級バッグだからといって、過保護にする必要はありません。

むしろ、

高級バッグだからこそ、普通に使う。

それくらいがちょうどいいと思います。

私の作るバッグも、

綺麗なまま飾られるためではなく、

使い込まれて格好よくなるために作っています。

傷がついてもいい。

シワが入ってもいい。

少しくたびれてもいい。

その先にしか出ない表情があります。

ぜひ、雑に使ってください。

鞄はちゃんと、それに応えてくれます。