完成するのは、あなたと時間を重ねたあと。

新品のバッグが、いちばん美しい。
そう思われることは、珍しくありません。
傷ひとつなく、革の色も均一で、形も整っている。
けれど私は、革のバッグをつくっているとき、
時々まったく逆のことを思います。
このバッグは、数年後のほうが格好いいだろうな。
Leather works KATSUYUKI TANAKAの
**BELMONT(ベルモント)**も、そんなバッグのひとつです。
使って、触れて、持ち歩いて。
少しずつ革が変わり、
少しずつ持ち主に馴染んでいく。
このバッグは、買った瞬間が完成ではありません。
むしろ、そこから始まります。
3年使ったバッグには、新品にはないものがある。
BELMONTに使っているのは、
イタリアンレザーの「マルゴー」。
表面には細かなスクラッチ加工が施されていて、
新品の状態では、どこかマットで静かな表情をしています。
けれど、使い続けると変わります。
手が触れる場所には艶が生まれ、
色は少しずつ深くなり、
革そのものに奥行きが出てくる。
新品の頃にはなかった表情です。
実際に3年以上使われたマルゴーのバッグを見ると、
同じ革とは思えないほど雰囲気が変わっています。
でも私は、それを劣化だとは思いません。
むしろ逆です。
その人が使ってきた時間が、革の中に残っている。
仕事へ持っていった日。
旅行へ連れていった日。
雨に降られた日。
大切な人と出かけた日。
何気なく車の助手席に置いた日。
そんな一つひとつが重なって、
少しずつその人だけの革になっていきます。
同じBELMONTは、二つと存在しない。
革は天然素材です。
同じマルゴー。
同じカラー。
同じBELMONT。
そうであっても、
完全に同じものはつくれません。
シボの入り方。
色の濃淡。
小さな傷。
革の繊維。
一枚一枚、すべて違います。
そして、そこからさらに
持ち主によって変化していく。
よく触れる場所も違えば、
バッグを持つ頻度も違う。
陽の光に当たる時間も、
暮らしている場所も違います。
だから1年後。
3年後。
5年後。
同じ日に購入した二つのBELMONTでさえ、
まったく違う表情になっているはずです。
これは大量生産された均一な製品では、
なかなか味わえない面白さだと思っています。
「買う」というより、「育て始める」。
革製品には、不思議なところがあります。
新品なのに、
新品が完成形ではありません。
最初は少し硬かった革が馴染んでくる。
表面のスクラッチが消え、
艶が現れてくる。
ハンドルが手に馴染み、
自然といつもの持ち方が決まってくる。
そうやって数年使っているうちに、
「自分のバッグ」
という感覚が強くなっていきます。
そして面白いことに、
そうなった革製品ほど手放せなくなる。
新品だった頃より、
傷が増えたあと。
色が変わったあと。
少しくたっと馴染んだあと。
その頃のほうが、
なぜか愛着が湧いている。
私は、それこそが
革製品を持つ一番の面白さだと思っています。
普通のトートバッグでは、終わらせたくなかった。
BELMONTのベースは、
非常にシンプルなトートバッグです。
けれど、
そのまま普通のトートをつくるつもりはありませんでした。
最も特徴的なのが、
バッグ全体を覆う大きなフラップです。
この一枚があることで、
一般的なトートバッグとはまったく違う表情になります。
クラシカルでありながら、
少し無骨。
上品だけれど、
かしこまりすぎていない。
ジャケットにも合う。
Tシャツにも合う。
仕事にも持っていけるし、
休日にも使える。
私がバッグをデザインするとき、
いつも意識していることがあります。
それは、
「使う場面を限定しすぎないこと」。
特別な日にしか使えないバッグではなく、
気づけばいつも手に取っているバッグ。
そのほうが革は育ちます。
そして、
その人の人生の中に残っていくバッグになるからです。
持った瞬間に、少しだけ自分が変わる。
良いバッグの価値は、
荷物を運ぶことだけではありません。
鏡の前でバッグを持ったとき。
街を歩いているとき。
仕事へ向かうとき。
ふとした瞬間に、
「これを選んだ自分、悪くないな」
と思える。
私は、そこにもバッグの価値があると思っています。
服装はいつも通りなのに、
バッグひとつで少し背筋が伸びる。
何でもない外出なのに、
少し出かけたくなる。
長く使ううちに、
バッグそのものが自分らしさの一部になっていく。
単に高級なものを持つということではありません。
自分で選び、
自分で使い、
自分で育てていく。
その時間も含めて、
革のバッグを楽しんでもらいたいと思っています。
10年後、どんな姿になっているだろう。
私はバッグをつくるとき、
完成直後だけを見ているわけではありません。
1年後。
3年後。
5年後。
できることなら10年後まで。
そのバッグがどんな姿になっているのか。
どんな服に合わせられているのか。
どんな場所へ連れていってもらっているのか。
そんなことまで想像しながらつくっています。
流行だけを追ってしまえば、
数年後には古く見えてしまうかもしれない。
だからこそBELMONTは、
奇抜さではなく、
長く残る造形を目指しました。
ただし、
普通にはしない。
その結果として生まれたのが、
大きなフラップを持つこの形です。
傷さえも、その人だけのものになる。
革のバッグを使えば、
いつか必ず傷が入ります。
雨に濡れることもあるでしょう。
少し色が変わることもある。
新品の姿を永遠に保つことはできません。
けれど私は、
それでいいと思っています。
革だからこそ、
その変化まで楽しめる。
傷が増え、
艶が増し、
色が深くなる。
そして気づいた頃には、
店に並んでいた新品とはまったく違うバッグになっている。
誰かが同じBELMONTを買ったとしても、
同じバッグにはならない。
あなたが使ったBELMONTは、
あなたにしかつくれません。
完成は、買った日ではない。
新品のBELMONTは、
まだ始まったばかりです。
これから手で触れ、
仕事へ持っていき、
休日を過ごし、
いろいろな場所へ連れていく。
その時間によって、
革は少しずつ変わっていきます。
そして何年か経った頃。
ふとバッグを見たときに、
「ずいぶん変わったな」
と思う瞬間が来るかもしれません。
そのとき、
新品の頃の写真と比べてみてください。
きっとそこには、
革の変化だけではなく、
自分が過ごしてきた時間も見えるはずです。
完成品を買うのではなく、
これから自分で完成させていくバッグを選ぶ。
BELMONTは、
そんな革の楽しみ方を知っている人のためにつくっています。
完成は、買った日ではない。
あなたが使い続けた、その先です。


